アウターキールなどを接着したエポキシが十分に硬化しておらず次の研磨作業にとりかかれない。なので、前から気になっていたエシャー展へ思いついて出かけることにした。


若くしてイタリアへ留学したその頃から、あの特異で人の眼を騙すような不思議な木版画の制作に熱中した彼だが、注目され作品が売れるようになるのは晩年になってから。最初は数学者と心理学者が、彼の作品に潜む法則や脳における視覚情報処理の不思議を示唆するものとして注目し、評判になってからは刷り(多くは木版画やリトグラフ)に時間を取られ、制作のための時間が取れないことを嘆いたそうだ。

横4mにもなる大作「メタモルフォーゼⅡ」を画集やヴィデオでなく、原寸で端から見ていきたかったから出かけて行ったのだが、展示の最後にガラスケースの中に納められていた。期待していたもう一つの作品「騎士(Knights on horseback)」は残念ながらコレクションにはないのか展示されていなかった。

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画家仲間からは理解されることなくむしろ嘲笑され、父には「お前は壁紙を作っているのか?」と呆れられたというエシャーの孤独を想った。芸術家のための養老院で死ぬのだが、家族は誰も葬儀に来なかったそうだ。

平面充填、同じ「騎士(馬上の男)」のモチーフが画面を隙間なく埋め尽くしているにぎやかな作品だが、そのなかの一人の騎士は自分以外の騎士の存在を原則として知りえない。なぜなら、一つの「図(figure)」が存在するためにはその背景となる無意味な「地(ground)」がなければならないから。画面にいる沢山の騎士たち、だがそこに在るのは完全な孤独なのだと、どこかで読んだ。


お目当ての「メタモルフォーゼⅡ」、展示の仕方が間違っていた。順路通りに進んでいくと4mの作品の終端に来て、皆さん作品を逆から見ていた。そばに立っている(恐らくキュレイターではなくバイトの)女の子に「これ見ていく方向が逆だからさ、お客に反対側から見ていってくださいと言ったら?」と余計な口を出そうとしたけれど、そんなこと言うとこれだから年寄りはイヤよねと思われそうで自重した。

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