ロジャ(黒ラブ)は2017年8月11日に14歳6ヶ月で逝った。その前年2016年の初夏、老いてはきたけれどロジャはまだまだ元気で、ヴィッキーと一緒にボール遊びに良く近くの海岸へ行っていた。泳いでボール取りに行くのがもう億劫になっていたロジャのため、遠くに投げたボールをヴィッキーに取りに行かせ、波打ち際のほんのすぐそこにロジャ用のボールを放ってやったものだ。

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そうして遊んでいたある夕方のこと、紺色海水パンツ(昔スタイルのね)を穿いたスキンヘッドの外人さんが、GoPro手に近づいてきて「ヒカリガキレイダヨネェ!」と言いつつうちのイヌどもを撮影し始めたから、正直ちょっと引いた。真正面に沈もうとしている夕日が海にキラキラ反射して、確かに美しい夕暮れだった。

そのうち「ボールを投げろ」と言うからヴィッキーに投げてやったら、今度は海へ投げろと。ボール取りに泳いでいくヴィッキーの後を、彼はGoPro片手に追いかけ泳いでいった。

しばしそんな時を過ごしてから彼が言うには(日本語会話は達者だった)「動画、欲しいでしょ?Dropboxに入れたら受け取れる?Instagramは1分間だから、編集して送るから。あなたのものだからInstagramでもFacebookでも、どう使っても良いよ」。楽しみに待っていたら、その夜、こんな動画が送られてきた。

感動、感激してすぐにInstagram(当時はアカウントを所持していた)のメッセージでお礼を送り、その後しばし英語(日本語は書けないそうだ)でメッセージのやり取りをし分かったのは、

プロのコマーシャル・フォトグラファで、Cassio Macambira (ブラジル人)とおっしゃること
普段は著名ファッション雑誌などの仕事をしており、被写体はたいていはモデルさんであること
あの日は休日で海岸へ来ていて、自分でも黒イヌを飼っていたこと
などなど

BGMが素敵だと言ったら、曲名と歌手を教えてくれた。ネットで歌詞(ポルトガル語)を調べたが意味不明なので、英訳したものを見つけ出しCDも買った。その意はこんな感じ。

"Como Uma Onda No Mar" (海の波のように)
sung by Lulu Santos
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二度とありはしない
同じことは二度と起こらない

何もかも、来ては去っていく(Tudo passa)
何もかも、いつだってそう(Tudo senpre
passará

人生は波のように過ぎる
海の波が絶え間なく寄せては返すように

でも、眼にするものは
かつて見たものと同じじゃない
何もかも変わっていくのだから

海の波のように(Como uma onda no mar
海の波のように(Como uma onda no mar

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ネイマールが Tudo passa と刺青を入れているそうで、それは「辛いこともいつかは消えてなくなるよ、クヨクヨするのはよそうよ」というブラジル人気質の象徴みたいに言われるそうだが、この詞にある Tudo passaeverything passes) はそれとは違うような気がする。むしろ、それは『ヘラクレイトスの川』あるいは『エフェソスの港』ということか。

・・・海でさえ去っていくのだから。エフェソスの港。いずれは消え、沈泥のたまる入江に変わる。


夕暮れの逆光の中で撮影されたこの動画、まさにゴールデンライトそのもの。主役のヴィッキーが、追いかけてくるスキンヘッドを気にして何度も振り返ってるのが可笑しいけれど、最後に登場しカメラにキスしてるロジャが良い味だしてます。ロジャも登場させてくれて本当に嬉しかった。

ロジャ、君のことをしばしば想い出すよ。君は春の花に囲まれクンクンし、冬の風に吹かれ耳がパタパタし、波打ち際をユックリ歩き、カヤックに乗り潮風に向かって顔を上げ、嬉しそうに笑みを浮かべ、時には悲嘆にくれペタッと伏せていたりもする。ロジャ、またいつかどこかで会おう。その時には、過去にまとわりつく様々な色合いをすべて剥ぎ取り、その瞬間だけを味わおう。いつか、どこかで。

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